カレー屋
近所にカレー屋がある。
スパイスから仕込む系の本格スリランカ風カレーの店だ。
少し値段は高めだが、確かに美味い。
自信を持って人にオススメできる下京区コンプトン界隈の名店である。
店の壁がきつめの青で塗ってあるなど、基本クセ強めの店なのだが、特にすごいのがここの店長である。
何がすごいかと言うと、本当にいつ見ても人民帽を被っているのだ。
人民帽とは、毛沢東が被っているカーキ色の潰れたアンパンみたいなアレである。
日本で人民帽を普通に被っている人など下北沢にしかいないと思っていたが、まさか我が下京区で出くわすとは。
しかも、その人民帽が実にしっくりくる顔出ちをしている上に、ショートボブに口髭という決まりすぎなビジュアルなのである。
狙ってやっているか、相当の香港映画好きかなどちらかである。
いつか仲良くなったら「お前に食わせるタンメンはねえ」って言ってもらおうと思っている。
ちなみに「ムジャラ」という店です。
金曜日はビリヤニもやってます。
焼きそば定食
先日、ある会社が飛び込み営業でカタログを置いて行った。
カタログには懐かしい名が書いてあった。
大学時代、就活の終わりに最後に行った会社だ。
就活の終わりと言っても、どこかから内定が出ていた訳ではない。
折しもリーマンショック後の不況の中、「なんで働いてやるのにスーツ着て頭下げなきゃいけねーんだ」と本気で思っていたノースキルのクソ学生を雇う会社などあるはずがなかった。
最初の方は多少マジメにやってもいたが、三ヶ月もしたらほとんどやる気が無くなっていた。
上記のようなメンタリティで、あのような非人間的活動が続く訳ないのだ。
作文を書き、着心地の悪い服を着て、オッサンに会うために大阪に通う毎日。
日に日に無気力になっていき、お祈りメールに対して「うるせー全員死ね」と返信する元気さえ無くなっていた。
せっかくたどり着いた最終面接も、雨でダルいのでキャンセルしたりしていた。
卒業したら南の島で金が尽きるまで隠遁生活を送りたいと本気で思っていた。
しかし実家住まいなので何もせずにゴロゴロしているのもバツが悪い。
とりあえずそれらしく会社を受け、格好だけはつけていた。
ある日受けた会社は、大阪の鶴橋が本社だった。
鶴橋は行ったことがなかったので、小旅行がてら説明会に行ってみることにした。
結果的に言うと、かつて見た中でも最悪の会社だった。
まず説明会の冒頭から小デブの人事が喚いていて不快だった。
とりあえずビデオ見てくれ的なことを言い残して始まったVTRがこれまた酷いのである。
要約すると、飛び込み営業を繰り返して社のために命を賭して働け、といった内容。
なかなか最悪すぎて逆に笑えた。
茶番VTRが終わると、小デブが輪をかけて横柄な態度でこう言った。
「これ見てキツいなと思った人、帰っていいからね!ウチは本当にやる気ある奴しか採らないから!」
僕は荷物をまとめて帰った。
人事や周囲の嫌な視線を感じながら、元来た道を駅まで戻った。
帰り道、僕はダメな奴だと思った。
あの豚の演説の後、席を立ったのは僕を含めて2、3人しかいなかった。
みんな、必死なのだ。
しかし僕はこんなにも無気力で、怠惰で、ぼんやりと生きている。
つくづくダメな奴だと思った。
行きはあまり気づかなかったが、駅の周囲はコリアン市場で極彩色の看板や食材があふれていた。
落ち込んでた心が少しだけ、踊る。
足は自然と市場へと踏み出ししていた。
市場をウロウロして、味見したり、匂いでむせたり、おばちゃんに絡まれたりしてるうちに、死んでいた心が蘇って来るような気がした。
市場の奥深くに、終戦直後にノリで建てたようなバラック作りの食堂を見つけた。
一番安い焼きそば定食を注文した。
焼きそばにご飯など普段は絶対にやらないが、大阪っぽくて面白いかなと思ったのだ。
絶品だった。
絶妙に濃い味の焼きそばと、白ご飯が織り成すハーモニー。
インターバルの具の少ない味噌汁も大変に味があってよかった。
腹が満ちれば心も満ちる。
僕はダメな奴かも知れないけど、つまらなくはない。
あいつらよりももっと面白おかしく生きてやろう。
そう思えるようになった。
今考えると、焦って変なとこを媚びて心を折られなくて良かったと思う。
心を折ると、自分が何をしたいかさえもわからなくなってしまうからだ。
今だって楽ではないし、お金もそんなにないけど、なんだかんだで楽しく生きている。
面白くない事も多いけど、これから面白くしていけば良いのだ。
ラスタマン・バイブレイションはポジティブなのだ。
今就活で悩んでる人も、気楽にやればいいと思う。
希望するところに入れれば良いけど、ダメだからといって自分を変えることはない。
仕事なんて世界中に無数に転がってるし、色々試して自分に合うものを求めていけば良いのだ。
無職だって全然構わないと思うし、生きてれば何かと色んな事が起こるから、それに流されてみるのもアリかと思う。
逆にお前みたいになりたくねえから、と奮起するのもアリかと思うし、とにかく心を折らずに気ままに頑張ってもらえれば良いかなと思う。
もし心が折れそうになったら、JRに乗って鶴橋駅の市場に迷い込み、これだと思う食堂で好きなものをたらふく食べてビールでも飲みましょう。
それから考えれば良いかと思います。
そんなことを思い出したので、誰か鶴橋に焼きそば定食食べに行きませんか?
BBQ
久々にBBQすなるものをした。
普段下京区の場末の飲み屋ばかりで酒をあおっているので、つかの間のリア充になった気分である。
野外に出て、集団で炭火を起こして肉を焼く。
非常に原始的かつ単純な作業だが、それだけで普段の何万倍も肉や酒が美味く感じる。
これほどまでにコスパに長けた娯楽はないのではないかと思う。
一人暮らしをしていると、まとめ買いした肉を一旦冷凍するので、肉を食べる前に解凍という作業が付いて回る。
自然解凍は時間がかかるし、電子レンジは加減が難しくいので、だんだんと肉を食べるのが億劫に感じてしまうのだ。
そんな怠惰のせいで徐々にベジタリアン化しつつある。
ここ一週間はほとんど動物性タンパク質を摂取していなかったので、昨日の肉は大変に美味だった。
昨日妙によく眠れたのはそのせいかも知れない。
でもまた日常に戻ると肉食わなくなるので、ちょこちょこBBQを仕掛けていこうと思う。
だって夏だし。
ハンドスピナー
最近、街中でをくるくるやってる人を見る。
お客さんも、よくくるくるやっている。
グーグルで調べると、どうやらハンドスピナーというらしい。
率直に言って謎だ。
何なのだあれは。
聞くところによると、あれをくるくるすることによって特にメリットはないらしい。
ケータイのデータ容量が減るとか、蚊が寄ってこないとか、UFOを呼べるとか、特にそういうのはないらしい。
何故人はあれをくるくるするために、わざわざ手に入れてくるくるするのか。
流行りなのか、はたまた何か圧力でもかかっているのか。
一つ言えることは、あれをくるくるできる余裕があるうちは平和だということだ。
いつまでもあれをくるくるできるぐらいの余裕のある世の中は、割と豊かで良いと思う。
ロボット
ロボットの進出が著しいらしい。
あと数十年の間にほとんどの仕事の働き手はロボットに成り替わるらしい。
喜ばしいことだ。人類総ニート時代の到来である。
好きなだけ野宿とSUPに打ち込める。
先日、初めてロボットに接客を受けた。
ソフトバンクが作ったペッパー君である。
だが誤作動なのか元々ポンコツなのかはわからないが、ほとんど受け答えはできなかった。
後半はずっと「リアクションって言ってください、リアクション〜」と壊れたファービーの如く繰り返していた。
テニサーの大学生並の芸のなさである。
正面に立っているとリアクション攻めに遭うことがわかったので、向かって左に避けてみることにした。
すると、奴はこちらの動向を認識しているらしく、こちらに顔を向けてきた。
しかもやや顎をあげ、こちらを見上げる形だ。
ロボットにメンチを切られる21世紀的体験である。
ペッパー君の目は白眼がぼんやり光り、黒目は真っ黒に塗られている。
この目が実に不吉なのだ、全く感情を感じさせない。
映画ジョーズでロバート・ショウ扮する漁師クイントの「サメの目には感情が全くない、人形のような目をしてやがる」というセリフがあるが、まさにそれである。
全く感情を感じさせない目にこっちをじっと見つめられるのは、大変に不吉な感じがするのだ。
まだまだ接客は人間の分野だなと思った。
しかし、あの目は本当に不吉なので軍事転用した方が良いのではないかと思う。
手にライフル銃を持ち、足がセグウェイ状に改造されたペッパー君が、硝煙の中から大軍をなしてこちらに向かってくるのである。
あの目でしっかりとこちらを捉えながら。
なかなかのディストピア感ではなかろうか。
バール
先日、某古民家をゲストハウスにするための改装作業を手伝った。
まだ着手段階なので、主な作業は解体である。
改装作業はまさに破壊と創造なのだが、僕は創造と同じぐらい破壊活動も好きである。
現代日本で派手に破壊して良いものなどそうそうないので、破壊はなかなか昂ぶるものがある。
破壊には主にバールを使うのだが、バールは本当に人類の英知だと思う。
梃子の原理を最大限に活かす長いリーチ、僅かな隙間をも捉える刃先、釘抜きにも突き刺しにも使える鎌首状の持ち手。
破壊活動の基本を一手に納めた、まさにリーサルウェポンである。
この日はダメになった床板を剥がしまくる作業だった。
床板はかなり頑丈に出来ており、闇雲に壊そうとしてもなかなか上手くいかない。
突き刺せそうな僅かな隙間を見つけ、刃先を入れ、支点を固定し、一気に持ち上げる。
いかに早く、強く、効果的に力を使い、床板を剥ぎ取るか。
破壊活動はただ力任せではなく、創造と同じぐらいクリエイティブな活動なのである。
破壊した跡は気持ちの良いぐらいのがらんどうが残る。
がらんどうがこれからどんなことになっていくのか、僕は楽しみで仕方がない。
破壊の後の創造も、やっぱり面白いですよね。
髪が固い
先日、酔っぱらった友人に「うるせえこのいがぐりが」と言われて少し傷ついているが、実際自分の髪はとても固い。
おまけに量も多い。
歴代の美容師さんにも言われ続けていることで、なかなかないぐらいの固さらしい。
その固さゆえに放っておくと横に膨張する傾向があり、かなり短く刈り込んでも2ヶ月すると五右衛門風になってくるので、一ヶ月半に一度は散髪を心掛けている。
以前に美容師見習いだった友人にカットモデルを依頼されたことがある。
世の中意外と短髪が少ないらしく、なかなか練習ができないらしい。
マメな散髪は金がかかるので、喜んでOKした。
カットモデルはいわば実戦訓練なので、友人の先輩立会いの下、時間を計って行われた。
確か45分とかだったと思う。
友人と会うのも久しぶりだったので、和気あいあいと会話しながらのカットが始まった。
しばらくお互いの近況や共通の友人の話題で盛り上がっていたが、20分を超えたあたりから雲行きが怪しくなってきた。
切っても切っても髪型が整わないのである。
感覚的に分かるのだが、量の多い髪はある程度のところですいておかないと髪の密度に邪魔されて髪型が整わなくなるのである。
友人のカットは明らかにすきの工程が少なかった。
徐々に迫る時間、焦る友人。
気づけばほぼ会話はなくなり、小声で「減らへん…」とか「なんでやろ…」とかつぶやいているのが聞こえる。
すまない友人、僕の髪質のせいで…。
結局、いがぐり状態でタイムアップ。
先輩が教えながら髪を整える次第となりました。
手に刺さり、シザーの刃が落ちるレベルの髪を試してみたい美容師さん、オファーお待ちしております。