下京区コンプトン

下京区コンプトンに住んでいました。

登戸駅にて

仕事を辞め、海外を転々とする生活を送っていた。

いくつかの国を巡り、3カ月ほどしたところで、やむを得ない事情で日本に一時帰国することになった。

 

久々の日本は相変わらずだった。

清潔で正確で、静かで老人が多いいつもの日本だった。

 

親戚に会い、親に会い、友人に会った。

 

友人に会った帰りの登戸駅で、僕は突然動けなくなってしまった。

改札口から出入りする人から目が離せなくなってしまったのだ。

 

時刻は夕方5時のぐらい。

会社帰りのリーマンや、買い物袋を下げた主婦、友達とふざけながら歩く女子高生。

いつもと変わらない日本の日常、自分が生きてきて今まで見てきた日常から目が離せなくなってしまった。

 

僕はこの中に戻って来れるだろうか。

この流れの中に、このスピードに、このリズムに、また戻ることができるだろうか。

しばらくの間この社会から切り離された僕は、この国の日常がすっかり掴めなくなってしまった気がする。

心には荒涼とした風がごうごうと響き、大事な荷物を失くしてしまった時の時のように呆然と突っ立ているままどうすることもできなかったのだ。

 

たくさんの人が改札に入って行ったし、たくさんの人が出てきた。

僕はそれをただ見ていることしかできなかった。

 

やっと一歩を踏み出した後も、違和感は続いていたし、今も続いている。

どうしていいかもわからないし、どうすることもできないだろう。

 

また僕はしばらく旅をする。

そう遠くなくこの国に戻ってくるだろう。

ただ、また心に吹き込んでくるであろうこの処置のしようがない違和感を、僕はどうすればいいかわからない。