ダブり
アメトークでダブり芸人というのをやっている。
うちの高校でのダブりは悲惨だった。
僕らの次の代から制服が変わったのだ。
僕らの代までは上下グレーの墓石ライクな制服だったが、次の代からは上下で色の違う割と小マシな制服だった。
つまりダブると卒業まで小マシな制服の中で墓石カラーの制服を着ることになる。
ダブるには最悪のシチュエーションだったのである。
幸い僕でも中上位につけられるぐらいに学力が残念な学校だったので、留年の心配はなかったが、それでもやっぱりダブる奴がいた。
ダブる奴には二種類がいた。
開き直って順応していく者と、溶け込めずに学校を去る者である。
学年が上がった時、ある同級生がダブったと聞いた。
全然仲良くもなかったが、「ドンシ」という強烈なあだ名をつけられていたので存在は知っていた。
ちなみに本名は井上なのだが、点を二つ足して「丼士(ドンシ)」だった。
由来は知らないが、つまりそういう存在だった。
本当に嫌な奴だと自分でも思うが、進級したその日に留年したドンシを一年生のクラスにわざわざ見に行った。
自分たちが昨年度使っていた教室をひとつひとつ見て回り、ドンシの姿を探したのだ。
二、三教室目でドンシを見つけた。
ドンシは俯き加減で席に座っていた。
制服の違いから、ダブったのは誰の目からも明らかだった。
それでなくても周りは先週まで下級生だった連中なのだ。
誰とも話せないし、誰も話しかけなかった。
ドンシはこちらに気づくと少し全員の顔を睨んだが、また元の俯き加減の無表情に戻った。
その時、彼は遠からずこの学校を去るだろうと確信したことを覚えている。
その後、彼がどうなったかは全く知らないが、どこかで元気でやっていればいいなと思う。