下京区コンプトン

下京区コンプトンに住んでいました。

焼きそば定食

先日、ある会社が飛び込み営業でカタログを置いて行った。

カタログには懐かしい名が書いてあった。

大学時代、就活の終わりに最後に行った会社だ。

 

就活の終わりと言っても、どこかから内定が出ていた訳ではない。

折しもリーマンショック後の不況の中、「なんで働いてやるのにスーツ着て頭下げなきゃいけねーんだ」と本気で思っていたノースキルのクソ学生を雇う会社などあるはずがなかった。

 

最初の方は多少マジメにやってもいたが、三ヶ月もしたらほとんどやる気が無くなっていた。

上記のようなメンタリティで、あのような非人間的活動が続く訳ないのだ。

作文を書き、着心地の悪い服を着て、オッサンに会うために大阪に通う毎日。

日に日に無気力になっていき、お祈りメールに対して「うるせー全員死ね」と返信する元気さえ無くなっていた。

せっかくたどり着いた最終面接も、雨でダルいのでキャンセルしたりしていた。

卒業したら南の島で金が尽きるまで隠遁生活を送りたいと本気で思っていた。

 

しかし実家住まいなので何もせずにゴロゴロしているのもバツが悪い。

とりあえずそれらしく会社を受け、格好だけはつけていた。

 

ある日受けた会社は、大阪の鶴橋が本社だった。

鶴橋は行ったことがなかったので、小旅行がてら説明会に行ってみることにした。

 

結果的に言うと、かつて見た中でも最悪の会社だった。

まず説明会の冒頭から小デブの人事が喚いていて不快だった。

とりあえずビデオ見てくれ的なことを言い残して始まったVTRがこれまた酷いのである。

要約すると、飛び込み営業を繰り返して社のために命を賭して働け、といった内容。

なかなか最悪すぎて逆に笑えた。

 

茶番VTRが終わると、小デブが輪をかけて横柄な態度でこう言った。

「これ見てキツいなと思った人、帰っていいからね!ウチは本当にやる気ある奴しか採らないから!」

 

僕は荷物をまとめて帰った。

人事や周囲の嫌な視線を感じながら、元来た道を駅まで戻った。

 

帰り道、僕はダメな奴だと思った。

あの豚の演説の後、席を立ったのは僕を含めて2、3人しかいなかった。

みんな、必死なのだ。

しかし僕はこんなにも無気力で、怠惰で、ぼんやりと生きている。

つくづくダメな奴だと思った。

 

行きはあまり気づかなかったが、駅の周囲はコリアン市場で極彩色の看板や食材があふれていた。

落ち込んでた心が少しだけ、踊る。

足は自然と市場へと踏み出ししていた。

市場をウロウロして、味見したり、匂いでむせたり、おばちゃんに絡まれたりしてるうちに、死んでいた心が蘇って来るような気がした。

 

市場の奥深くに、終戦直後にノリで建てたようなバラック作りの食堂を見つけた。

一番安い焼きそば定食を注文した。

焼きそばにご飯など普段は絶対にやらないが、大阪っぽくて面白いかなと思ったのだ。

 

絶品だった。

絶妙に濃い味の焼きそばと、白ご飯が織り成すハーモニー。

インターバルの具の少ない味噌汁も大変に味があってよかった。

 

腹が満ちれば心も満ちる。

僕はダメな奴かも知れないけど、つまらなくはない。

あいつらよりももっと面白おかしく生きてやろう。

そう思えるようになった。

 

 

今考えると、焦って変なとこを媚びて心を折られなくて良かったと思う。

心を折ると、自分が何をしたいかさえもわからなくなってしまうからだ。

 

今だって楽ではないし、お金もそんなにないけど、なんだかんだで楽しく生きている。

面白くない事も多いけど、これから面白くしていけば良いのだ。

ラスタマン・バイブレイションはポジティブなのだ。

 

今就活で悩んでる人も、気楽にやればいいと思う。

希望するところに入れれば良いけど、ダメだからといって自分を変えることはない。

仕事なんて世界中に無数に転がってるし、色々試して自分に合うものを求めていけば良いのだ。

無職だって全然構わないと思うし、生きてれば何かと色んな事が起こるから、それに流されてみるのもアリかと思う。

逆にお前みたいになりたくねえから、と奮起するのもアリかと思うし、とにかく心を折らずに気ままに頑張ってもらえれば良いかなと思う。

 

もし心が折れそうになったら、JRに乗って鶴橋駅の市場に迷い込み、これだと思う食堂で好きなものをたらふく食べてビールでも飲みましょう。

それから考えれば良いかと思います。

 

そんなことを思い出したので、誰か鶴橋に焼きそば定食食べに行きませんか?