建て前
世の中は本音と建て前が溢れている。
建て前とは大変に便利なものである。
とりあえず建てておけば、どんな詭弁でも理由になりうるのだ。
前日東急ハンズのクッキングコーナーを見ていると、ワイン酵母なるものが売っていた。
近年流行りの自家醸造キットすなるものである。
コンドームの袋ぐらいの大きさに粉末のワイン酵母が入ったもので、約24Lのワインを醸せるらしい。
たいしたものである。
しかし、注意書きに妙な一文がくっついていた。
※日本では無免許のアルコール1%以上の酒類製造は認められておりません
とのことだ。
激しい自己矛盾である。
ワイン酵母の存在意義が問われる事案だ。
このメッセージを読み解くと、建て前は「ワインを24L醸せるけど、アルコール飲料作ったらあかんで」
となる。
おそらく本音では「うちでは責任持たねーけど勝手にしやがれ」ということかと思う。
はっきり言って詭弁であるが、注意を喚起して禁止される理由に該当しなければお咎めはされないのだ。
これが建て前の効能である。
同じような例で、10年ほど前の大阪南では、大麻の種が普通に売っていた。
大麻は発芽させた瞬間から取締法に引っかかるので、「このタネは観賞用なので、絶対に発芽させないでください」との注意書きが貼り付けられていた。
もちろん、これも建て前と言う名の詭弁である。
どの世界に大麻の種を部屋に飾って見て楽しむ人間がいるのだ。
しかし、前例と同じく禁止される理由に該当しないので、罰せられないわけだ。
建て前は役に立つ。
人間社会では建て前によって救われることも多くあるのである。
時には詭弁を建てて道理を封じ込めるのも、必要になることだってあるのだ。
でも大麻の種はさすがにダメだったようで、最近は全然見なくなった。
多分、引き際も大事なのだろう。
詭弁は用法用量を守り、正しくお使いくだはい。