偽物
高校の時、ラーメン屋でバイトをしていた。
このラーメン屋はかなりのガテン系で、飲食業界でYAZAWAばりの成り上がりを夢見た熱い若者達(及びおっさん達)が日々汗を流して働いていた。
店長を筆頭に社員はだいたい元ヤンキーの方々だった
。
ある日、バックヤードでたまたま居合わせた店長と話をしていた。
店長は当時40歳過ぎで僕と同い年ぐらいの息子がいたので、よく可愛がってくれていた。
店長がタバコを吸うとき、火をつけながらライターを僕に見せてきた。
金色の高級そうなライターだった。
店長は僕にライターを見せながら、
「これはデュポンっていう会社のライターなんやけど、ホンマは偽物なんや」と僕に言った。
更に「偽物やけど、俺ぐらいの人間が持ってると本物に見えるねん。お前が持ってても偽物にしか見えへんやろ?だから大物になって偽物が本物に見えるようにならなあかんねん」と言った。
僕は「あ、はい」とだけ答えた。
なんか良い事を言ってる雰囲気を醸していたので何も言えなかった。
でも、どう見えようと偽物は偽物じゃないか?
いい歳して偽物のライター持って本物に見えると自慢するのってクッソ恥ずかしいしダサいことではないのかと。
大きく見えていた店長をひどく矮小に感じた時だった。
その一件以来、高級品の偽物を買ったり持ったりしなくなったので、それは良かったと思っている。